クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
「では、また栞……或いは、香り袋(サシェ)が作れるように、乾燥させておきましょうか」
 と、別の提案をしてきた。
「そうではないの。ランベール……」
 いつもランベールは花をくれた。騎士はいつ死んでもいいように、形のあるものを残さないという彼の信念を、以前に聞かされたことがある。それを知っていても尚、レティシアはランベールに願い出た。
「あなたと私を繋ぐものがほしいの」
 言葉にすればするほど、秘めた想いは『恋』という形に変わっていく。その形を認識すればするほど、彼のことが恋しくてたまらなくて、彼への愛しさはよりいっそう募るばかりだ。果実が日を追うごとに熟していくのと同じで、彼への想いは、どんどん甘くなっていくのだ。
 ランベールは今度こそ、驚きの表情を見せた。
「それは……」
 と、彼は言葉を閉ざした。拒絶の言葉を覚悟し、レティシアは思わずびくりと肩を揺らした。でも、ランベールは何も言わない。
(お願い。何か言ってほしい……)
 沈黙が長くて、とても怖く感じた。拒まれてしまったら、明日からどう生きていけばいいかわからないかもしれない。
 やっぱり、今からでも取り消すべきだろうか。けれど、いつも側にいてくれる彼には、彼にだけは本当の気持ちを知っていてほしい。ひとりで抱えずに共有したかったのだ。
 激しい葛藤を抱きながら、レディシアは自分の手をぎゅっと硬く握り締め、ランベールの回答を待った。
 彼は何度か伝えるべき言葉を悩むように唇を開きかけ、それから、黙り込んでしまう。そんな彼の様子を見て、レティシアはたちまち申し訳なくなってしまった。
 やがて沈黙に耐えかねたレティシアは、しゅんと俯く。
「ごめん、なさい。困らせて……」
 しばらくしてから、ランベールはおもむろに彼女の手に触れた。レティシアは弾かれたように彼を見上げた。慈愛に満ちた眼差しが向けられていた。
「レティシア様は……この国にとって大事な花の妖精です。そんなあなたに私が形のあるものを残したら、いつかあなたが出会う太陽の王に、失礼になりませんか」
 ランベールはきっとレティシアの言わんとすることを具体的に悟ってくれたのだろう。その上で、あの本に絡めて、やんわりと諌めようとしているのが伝わってくる。
 突き放される不安から、レティシアは思わず彼の手を握り返した。
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