クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 結ばれなくてもいい。ただ、想っていたい。そう願うことが罪でしかなかったとしても、彼を失いたくなかった。それほど好きだということだけは伝わっていてほしかった。
「ランベール。私……」
「しっ。落ち着いて」
 顎を掴まれて、唇を指先でなぞられた。レティシアは言葉を失い、ランベールの静かな瞳を見つめ返す。彼は迷いを解くように、深くため息をついた。
「……殿下、あの本はどこまで読みましたか?」
「まだ、半分くらいしか……」
「では、まずは最後まで読んでください。それからもう一度、最初から読み直してください。話は、それからにしましょう」
「そこに、何があるの?」
 まったくレティシアは意味がわからない。はぐらかされたのか、それともランベールには何か別の考えがあるのか。
 ランベールはただ微笑むだけで、何も教えてくれない。彼の真意が知りたくて、レティシアは彼を見つめ続けた。けれど、彼は意図的に話をしようとしていない雰囲気だ。
 いつもなら、彼がどんな人なのか側にいて感じとれたのに、今はまるで知らない人が側にいるみたいだ、とレティシアは思った。
 すると、ランベールはレティシアの唇をなぞっていた指を離し、それから目を細めた。
「あなたは可愛いひとですね。いつまでも変わらない……無垢な瞳をして、私を見つめてくるんだから」
 子猫をあやすかのような声音と視線が、レティシアにはとてもくすぐったく感じた。
「……っ……子どもっぽい、そう言いたいのね」
 レティシアは拗ねた目をランベールに向けた。
 彼はふっと微笑んで、首を横に振る。
「いいえ。あなたは子どもではない。とても聡い女性だ。それに、あなたの存在に、民はみな、とても安心するのです。私は、あなたに花の妖精から、太陽の女王になってほしかった。そのためには、なんだってしたいと思っています。ですが、このままでは……どうにもならないんですよ」
 思いつめたような、いつもよりも低い彼の声に、レティシアは不安を抱く。
「このまま、では?」
「その答えを、あの本で見つけてください。そして、見つけられたら、あなたの気持ちを聞かせてください」
「本の中に、いったい何があるの?」
 そう聞いても、ランベールはまた黙ったままだった。
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