クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 朱に染まった剣を持つランベールを想像しそうになり、レティシアはかぶりを振った。
「私が、輿入れをしたら……いなくなったら……その時を待っているの?」
 レティシアは愕然とし、そこから魂が抜けたように何も考えられなくなってしまった。
 国王の政治に疑問を抱いていたのは、王族のひとりであるレティシアも同じだ。今のグランディアス王国……カルロス王は、国内の騒乱を市民の一時的な感情だと取り合わず、見てみぬふりをしている。そんなふうに感じたことがあった。
 出入りしている兵士や臣下の話をこっそり耳にしたのだが、外交においては、諸外国との友好を優先するよりも、資源が豊富な強みをちらつかせ、法外な交渉に重きを置いているのだとか。その結果、いまや不満は外側からも内側からも向けられている。
 それでも目を背け続け、国はただ中央に存在し続けている。その怠慢な姿は、中央の国の過去の歴史に依存しているといっても過言ではない。
 今のグランディアス王国は鎖国したも同然の、閉じられた世界に成りつつあったのだ。その窮屈な世界の内側も崩壊しつつある。臣下による謀反はいつか起こるかもしれない。 そんな危機感はどこかにあったかもしれない。
 しかし、実際に、クーデターが起きれば、どうなるか。
 国王は失脚する。それは間違いないとして、歴史に倣えば、レティシアを含め王族の血を持つ者は皆処刑されることは必須。それを避けるためには、亡命することになるだろう。
 そこでレティシアはあることに気付いた。
 ひょっとして、それを避けるために、ランベールはレティシアの輿入れ後のタイミングを狙っているのだろうか。
 そんなことをすれば、ランベールとレティシアが一緒にいる未来は永遠に訪れない。そればかりか、ふたりは敵同士になってしまう。たとえ、レティシアが他国の王妃になっても、元グランディアス王国の王女であることには変わりない。そうなったら、グランディアス王国を滅ぼそうとした彼と、友好的な関係でいるのは不可能だろう。
 それとも、彼は死ぬ気で――。
「そんなのいやっ」
 レティシアは本から顔をそむけ、思わず顔を覆った。
「私が……もっと頼れる存在だったら……もしも王位を継いでいたなら……」
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