クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 太陽の女王になってほしかったと、ランベールは言った。でも、レティシアはそうはならなかった。それなら、これからどうしたらいいのだろう。彼は何を望んでいるのだろうか。
 ランベールはレティシアにどうしてほしくて、本を読んでほしいと言ったのだろう。
 彼への気持ちを諦めさせるためなのだろうか。何かをしてほしくて伝えたかったのだろうか。止めてほしかったのか、後押しをしてほしかったのか。
 思考は常に二極に揺れる。
 考えれば考えるほどわからなくなり、その先の扉が閉ざされていってしまう。
 ただ一つわかるのは。彼は、レティシアを信用しているということだ。そうでなければ、こんな危ない情報を、わざわざ王女であるレティシアに伝えようとはしないはずだ。
(やっぱり、本人の口から本心をちゃんと聞かなくちゃ……わからないわ)
 レティシアは今にも部屋を飛び出しそうな、いてもたってもいられない想いで、窓の外を見た。
(ランベール、あなたの気持ちが知りたい……)
 王城を照らす月は、穏やかに夜空に張り付いている。戦争にも外交にも興味のない、愚かしいほど怠惰な国王は、信頼を寄せている騎士が謀反を起こそうとしているなどとは露程にも疑っていないことだろう。
 ランベールはまたしばらく王立騎士団として外に赴く。どのくらいで戻るのかはわからない。予定を聞いておけばよかった。そうしているうちに、レティシアの誕生祭が近づいてきてしまう。
(早く帰ってきて……)
 レティシアはいつも以上に、早く、一日でも、一刻でも早く、彼に会いたいと切に願った。

     ***

 早朝に騎士団の招集がかかった。賊討伐の任務だ。
 初夏とはいえ、山に囲まれた王城では、まだ陽が登らない時間はとても肌寒い。吐息もかすかに白くなっていた。
 任務先への出立までの時間、ランベールは厩にいる馬に構っていた。いつも彼の相棒を務めている牡馬だ。つぶらな黒瞳には活力が感じられ、丁寧に手入れされたご自慢の黒毛は艷やかに輝いている。
 彼はもっと構ってほしそうに顔をすりよせてきて、愛嬌をのぞかせている。どうやら今日はご機嫌らしい。
「今日も、よろしく頼むよ」
 と、ランベールは牡馬の頭をやさしくなでてやった。
 馬は可愛いが、名前はつけないようにしている。あくまでも騎士にとっての脚力である。
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