クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 ランベールが自身にそう言い聞かせるのは、失うものを多く作りたくないという、彼の信念のひとつであった。
「さてさて、王女殿下は、いかがおすごしでしたか」
 その声にランベールは振り返った。
 立派な黒ひげを生やした、第一騎士隊長マリユスが、厩にいたランベールに声をかけてきたのだった。
「あいかわらず、です」
 と、ランベールは答えた。あまり多くを語らないのが、いつもの彼だった。
 マリユスとは、ランベールが騎士隊第二隊長に昇格してから、随分親しくさせてもらっている間柄だ。
 ランベールよりもひとまわり以上年配のマリユスは、数いる精鋭騎士の中で最も古参だという。
 騎士団には多数の騎士隊が組織されているが、その騎士隊の中で、難しい任務を任されることが多いのが第一騎士隊長だ。
 また、合同の捜査や任務において指揮官としても経験が豊富である。頼りになる彼がいるだけで、周りの騎士の士気も必然と高まる。そんな彼をランベールも尊敬していた。
 唯一、マリユスに欠点があるとしたら、話好きというところかもしれない。
「あいかわらず、可愛いお姫さんかい」
 そっけないランベールにお構いなしに、マリユスは尚も揶揄(やゆ)を込めて絡んでくる。
 何かを言わなければ、解放してくれる気はなさそうだ。仕方ないので、ランベールはひとつレティシアに関するエピソードを聞かせることにした。
「おてんば、という意味です。この間も、またバルコニーから身を乗り出して、騎士団の帰りを眺めていたようですよ。護衛についていない時間ですし、いつか落ちてしまうのではないかと、侍女がひやひやしていました」
 その話を聞いたマリユスは、ははっと豪胆に笑った。
「女というのは、最終的には、守られるよりも、選ばれることを、望むものなんですよ」
 にやり、としたマリユスの視線に、ランベールはきまりわるくなる。
 どうやらマリユスはランベールがレティシアを密かに想っていることを感じとっているらしかった。
「しかし、私には選ぶ権利というものが、ありません」
 根掘り葉掘り聞かれるのは厄介なので、ランベールは即座にそう言ったのだが、年配者のマリユスの方が一枚上手だった。
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