クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
「そうかい。それじゃあ、お姫さんが一方的にあんたに夢中になってるっていう、のろけにしか聞こえないねぇ。それで? 守る守るって言いながら、健気なお姫さんに背を向けるってかい」
「私はけっして、そういうわけでは……」
 マリユスのしてやったりといった表情に、しまったな、と思った。
 うっかりむきになってしまった。顔が熱くなるのを感じながら、ランベールはやがて沈黙と化した。
 マリユスは人を煽るのがうまい。彼の前では鉄の仮面も意味をなさない。彼に構われていたら、そのうち余計なことを吐露してしまいそうだ。
「弁解しなさんな。それと、大事なものは、失ってからでは遅いっつーことを、誰より知っているのは、あんたでしょう」
 ランベールには返す言葉がなかった。親も兄弟も亡くした、身寄りがない彼のことを、マリユスは慮ってくれているのだ。
 もう、これ以上、失うことはしなくていい。まして、自分から手放すことはしなくていい。そういう激励に聞こえた。
 ランベールの胸がたちまち熱くなる。もしも兄弟が今も生きていたら、マリユスとの関係のような感じだっただろうか。そんなふうに空想までした。
「そう、ですね。おっしゃるとおりです。だから私は、王女殿下には、誰よりも幸せになってほしいんですよ」
 自分にとって、命よりも大事な存在。親や兄弟がいない孤児だったランベールが、唯一、肉親と同じ温度で接することができたのは、彼女が初めてだった。
 誰より愛おしくて、大切な彼女には、いつも陽の光が当たっていてほしい。いつでも、その笑顔を曇らせないで、輝いていてほしい。
 ランベールが困ったように白状すると、マリユスは目を細めるようにして微笑んだ。
「第二騎士隊長さんよ。あれこれ抱え込みすぎなさんな。あんたはもうひとりじゃない。頼れるところは、もうたくさんあるはずだ。斯く言う俺もそのひとりだということ、くれぐれも忘れなさんな」
 と、マリユスはランベールの肩を叩いた。
 心強い言葉に面(おも)映(はゆ)いような気になりながらも、ランベールはわずかに口端を上げるだけだった。
 マリユスが厩から立ち去ってから、ランベールはすぐそばにある薔薇園を通り、離宮の塔の方角を見上げた。
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