クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 以前に、レティシアは騎士団の様子が見えないからと言って必死に身を乗り出していたようだが、こちらからは離宮の塔がはっきり見えるようになっていることを、閉じ込められている彼女は知らないのかもしれない。
 騎士たちの間では、深窓の王女殿下の噂が日々絶えない。美しい彼女を一目見たいと、任務から帰ってすぐに群がっていることもある。
 それは、ランベールも例外ではなかったのだが、できれば他の騎士に彼女を見られたくなかった。
 事実を知ったら、いったい彼女はどんな顔をするだろうか。きっと咎めることはないだろうが、照れたように笑うかもしれない。
 護衛についていないときでも、彼女の姿を見かけることがあり、そのたびにランベールはついレティシアの部屋を気にかけるようになってしまっていた。
 レティシアは今頃、あの本を読んでいるだろうか。
 なぜ、彼女に明かしてしまおうとしたのか、根負けしてしまった自分を悔いていた。
 何も知らないままの方が、彼女は幸せになったかもしれないのに。彼女が幸せになれる未来こそが、必要なものであったはずなのに。
 選ぶ権利がなかったはずの自分は、あのとき、つい手を伸ばしてしまった。
『想いを伝えることを許してほしい……』と、レティシアが涙をこぼしたとき、それほどまでに彼女がずっと想っていてくれたのだと思ったら、どうしようもなく心が揺さぶられた。たまらなくなってしまったのだ。
『それでも、私は本当にあなたのことが、好きで……知ってほしかった。傷ついたって、どうしたっていいって思ってしまったの』
 彼女をそこまで追い詰めてしまった原因は、自分だと知って、ランベールはいたたまれなかった。
 彼女をおもいきり抱きしめて、そのまま連れ去ってしまいたい衝動に駆られたことは、どうしたってもう認めないわけにはいかないだろう。
 マリユスの放った言葉は、的を射ているのかもしれない。守られて閉じこもっているだけの彼女ではない。彼女は守られるよりも、選んでほしいと思っているかもしれない。
 だが、それはランベールが彼女を傷つけていい理由にはならない。
 彼の葛藤は続いていた。陽が高く登ろうとも、いつまでも霧散することはなかった。

▼節タイトル
第四章 絶望と希望

▼本文
 騎士団が王城に戻ってきたのは、それから二週間後の午後だった。
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