クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 いつものように、レティシアはバルコニーから様子を窺っていた。もうあと一時間くらいすれば、ランベールはいつものようにレティシアのいる離宮を訪れるだろう。
 レティシアは待っている間、ランベールから渡された本を抱きしめ、頭の中で物語を反芻していた。
 騎士が愚かな王を討つために謀反を起こす。そのあとに戦火にのまれながら、彼は静かに死んでいく。想いを託され、花の妖精の女王は残される。彼女は彼の子を身ごもり、新しい国には王子が生まれた――そんな最後だった。
 レティシアは急に寒気を覚え、思わず自分の腕をさすった。
 もしも物語をなぞるような計画をランベールが考えていて、彼が死ぬ気でいるのなら、絶対に阻止しなくてはいけない。
 或いは、物語通りのことを望んでいるわけではなく、彼が読み解いてほしい内容が他にあるのなら、きちんと向き合って話を聞かなくてはならない。彼への回答を間違えてはいけない。
 もし、間違えてしまったら、きっと彼は背を向けてしまう。彼はレティシアに何を求め、どう在ってほしいのか。彼を本当の意味で理解したい……と、レティシアは心の底から思う。
 どのくらい逡巡していたことだろうか。部屋のノックの音で、レティシアはハッとする。「どうぞ」と返事をすると、ドアが開き、いつものようにランベールが姿を見せた。
「おかえりなさい、ランベール」
 レティシアは自然と微笑んでいた。
 あれこれ考え込んでいたけれど、やはり大好きな彼の顔が久しぶりに見られるのは嬉しいものだ。
「ただいま帰りました。王女殿下。今日はこれを」
 ランベールはまたいつものように花を見せてくれる。今日はオレンジ色のポピーだった。
 彼の手の中で、四つの花弁が開いた一重咲きの花が揺れている。レティシアはそれをそっと受け取った。
「ポピー……かわいいのね。オレンジの紅茶が飲みたくなる色だわ」
 話に聞いていた任務先の近くには、色とりどりのポピーが咲く丘がある。ひょっとしたら、そこに立ち寄ってきたのかもしれない。緑の絨毯を快活に駆けていく羊や山羊の姿までが目に浮かんだ。
「明るいお色がお好きかと思いまして」
 と、ランベールが気遣ってくれる。
「ええ。そうね。黄色やオレンジや緑。私が好きな色よ」
 レティシアはますます嬉しくなり、笑顔を咲かせた。でも、その表情はやがてぎこちないものに変わっていく。
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