クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
「……政治の話ね?」
「ええ。私は、戦争を憎んでいます。だから、戦争がしたいわけではないのです。野心のためにクーデターを望んでいるわけでもありません。皆が穏やかに過ごせる平和が一番望ましいでしょう。けれど、今は誤った平和のあり方を民に押し付けているだけに過ぎません。本当の意味での平和を継続するためには、見過ごしてたことに目を向け、動かさないといけないこともあるんです」
 ランベールは花瓶の花に目を向けた。花は、少し萎れかかっている。花びらの先や茎の部分の色も変色してしまっていた。
「花も水を注ぎすぎれば、やがて根腐りを起こします。それが今のグランディアス王国の現状です。誰も君主に進言せず、見てみぬふりをしてきた。臣下は飼い慣らされ、一緒に濁った泥水に浸かっている。それが一刻の猶予もない状態にまでになってしまった。もうこれ以上は時間の問題です。今すぐにも、変えなくては……取り返しがつかなくなる。国が滅びる前に、新しく指揮をとる人間が必要なんですよ。そのためなら、危険など百も承知の上です」
 自分を追い詰めるかのように深刻な表情を浮かべるランベールを見て、レティシアは唇を噛んだ。
 彼はどれほど心を痛め、どれ程の長い間、悩んでいたのだろう。側にいたのに、何も察知してあげられなかったことが、とても悔しくてたまらない。
 いたたまれなくなって、レティシアは俯く。
「ごめんなさい。私が女王の器になかったから……あなたをそこまで追い詰めてしまっていたのね」
 それでも尚、王女という身分である自分がひどく滑(こっ)稽(けい)に思えた。王族とは名ばかりの、なんて無力な存在なのだろう。
「いいえ。私は、レティシア様こそが、ふさわしいと思っていましたよ。そうであれば、こんな結末は迎えることはなかったでしょう。先代が生きていれば……そう何度も思いました」
 悔しそうに、ランベールが拳を握ったのが見えた。彼に思いつめてほしくなくて、レティシアは衝動的に彼に抱きついた。
「お願い。あなたが今何を考えているのか教えて。私はどうすればいいの。あなたと離れるだけでなく、敵対するなんて……そんなの絶対にいやよ」
 こんなふうにしがみついたところで、彼を止めることができないのなんてレティシアにはわかっている。でも、そうせざるをえなかった。彼を失うかもしれないと思ったら、じっとしていられなかったのだ。
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