クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 彼に迷いはなかった。それから死にものぐるいで鍛錬を重ね、騎士としての才能を自ら見出し、卒業後は王立騎士団に志願した。
 王立騎士団入団後も、彼はストイックに任務に従事した。その結果、ついに第二騎士隊隊長に登りつめ、念願の彼女の護衛を任されるまでになったのだった。
 レティシアは、改めてランベールがどれほど想ってくれているのかを知り、胸の中に熱くこみ上げるものを感じていた。
「明日も、明後日も、来年も、その次の年も、ずっと……あなたが言ってくれたように、私の心には、あなたという花が在った。やさしくて可憐な、一輪の花、たった独りになった私に残されたのは、絶望ではなく、希望だったんです」
 ランベールはレティシアを見つめた。彼の瞳は、レティシアの中に昔の彼女の面影を探しているようだった。
「……たった独り……とても、辛かったでしょうね」
 レティシアは息をのんだ。物語の騎士とランベールの過去とが重なって思えた。大事な家族をすべて失い、ひとりだけ取り残された。それはどれほど心細かっただろう。知っている顔も次の日には死んでしまっていた。壮絶な苦しみを彼は経験したはずだ。それを本人以外が語れることではないと、レティシアは判っていたから。
 慰労にまわったとき、幼いながらに考えた。
 王族の自分は安全な王宮から見下ろすしかできないのだろうか。そうではなく、上を向くのは苦しい、前を向くのは辛い、そういうふうに痛みを抱えている人々が、ふと足元の花を見て表情を和らげられたら。
 彼らの視線の先に、自分の存在があることを示していたかった。せめてもの慰めになるように。
 それが、ランベールの心を癒やしてくれていたのなら、これほど嬉しいことはない。彼のために少しでも役に立てる存在でいたなら……。
 なんてことなのだろう。彼とはもっと前から繋がっていたのだ。運命は繋がっていた。今、ちぎれそうなほど細くなりかけていた絆が、結び直されていく気がした。
 目頭が熱くなり、視界がぼやけていく。自分が泣いてしまってはいけないと我慢すればするほど、涙はたちまち溢れて、頬に滑り落ちていく。
 その涙を、隣にいるランベールはやさしく拭ってくれた。
「レティシア様……あなたを守るために、私はここにいるのに、あなたを泣かせてばかりいる。騎士失格ですね」
「そんなことないわ。私が、勝手に泣いているんだもの」
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