クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 それを聞いて、レティシアはハッとした。数日前、ランベールと打ち合わせをしたときのことを思い出したのだ。
『これから先は、信用できる人と、そうではない人と、見極めてください。今から、合言葉を教えます』
 そんなふうにランベールから伝えられたことを。
「花の妖精について、聞かせてくれる?」
 レティシアの合言葉に、騎士は即座に反応し、手の甲を差し出し、ひっくり返すように掌を見せた。その手で拳をつくる。
 ランベールから教わった手順通りの動作を見て、彼女はホッとした。目の前の騎士は、どうやら嘘はついていないらしい。
 しかしまだ不安は残る。作戦が狂ったとなれば、どこかでほころびは出ることだろう。肝心の彼は戦場に駆り出されているということだ。
「国王の身柄は、既に拘束してあります。ヴァレリー王国が動いた以上、向こうとの戦が終わるのを待っているのでは遅い、という判断です」
 それを聞いて、レティシアは息をのんだ。背筋に冷たいものが走り抜けていく。謀反は起こってしまった。もう後戻りはできない。そういう局面にあるのだ。
 震えそうになるのをぐっとこらえて、レティシアは騎士に問う。
「そう。つまり、作戦が頓挫したというわけではないのね?」
「ええ。おそらく、敵も王女殿下の輿入れのタイミングを狙っていたのでしょう。いずれ、必要な戦いだったんですよ。そのことをランベール様もよくわかっておられるはずです」
 その上で、策を講じている。勝算があるからこそ、先手に出ているのだ。きっと才知ある彼なら、はじめからヴァレリー王国の動きも予測していたことなのだろう。
 それならば、レティシアも自分の務めを果たさなければならない。
 彼女は動揺を押し隠し、若い騎士に冷静に問いかけた。
「今、私にできることは何?」
 すると、騎士は外の様子を気にかけつつ、彼女の問に答える。
「殿下には、王宮の正殿にて、まもなく戻られるランベール様のことをお待ちいただきたいのです」
「それだけでいいの?」
「これが、一番、大事なことです。無意味な殺戮(さつりく)を一切行わないためにも、今は城の者の避難を最優先にしていますが、王宮の正殿には、革命軍の兵士たちだけでなく、中心に立つ御方がいなければなりません。その役目をレティシア様に担っていただきたいのです」
「私が、正殿の方へ……」
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