クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 代わりに向こうの勢いが失速しはじめる。やがて好機は完全にこちらに傾いた。敵の陣形は崩れ、機能しなくなる。分断された隊は次々に引いていかざるを得ない状況に陥っていた。
 勝利を確信したランベールは、敵勢に最後の土留めを送る。
「どうか話を聞いてほしい。情けが惜しくばそのまま降伏をしてくれ! 我々はこれより新しい国に生まれ変わる。その暁には、友好国として協力を惜しまない」
 敵勢は徐々に動きを止め、最後には、戦意喪失の末に白旗を上げた。ランベールは胸に熱い滾(たぎ)りを感じながら、歓喜に震える拳を突き上げた。
「此度の勝負は、我々に有り!」
 勝利宣言に、猛者たちの咆哮(ほうこう)が大きく響き渡った。
 揺れる大地はじょじょに静けさを取り戻していく。ヴァレリー側はこれ以上、攻め入ってこない。
 至るところで怪我人は見るが、重傷者や命を落とした者は見られなかった。そのことにも、ランベールは深く安堵する。
 生ぬるいと騎士団長には叱責されるかもしれない。だが、これがランベールのやり方だ。終わったのだ、と彼は乱れた息を整えた。
 しかし侵攻を食い止めるだけではない。他にもやるべきことがある。
 すぐにも彼は王宮のことを気にかけた。とにかく一刻も早く戻らねばならない。
 レティシアのことが脳裏をよぎった。彼女は、今頃、正殿にいるだろう。そこには、拘束しているカルロス王がいる。革命軍を信頼してはいるが、ヴァレリー側が攻め入ってきたように、何事にも万が一ということがある。
 ランベールは並走していた騎士に声をかけた。
「すまないが、私は王宮に急ぎ戻らねばならない。何かあれば、第一騎士隊長に繋いでくれ。話は既に通してある」
「はっ。了解しました」
 騎士の返事を聞き、馬の足を変えた。そうして鞭(むち)を入れ、走り出した時だった。
 どんっという衝撃が背面からやってくる。ざわめきが一瞬、遠のいた。退いてきた馬同士が衝突したのかと一瞬思ったが、違った。その違和感はすぐに何か、彼は気付いた。
 ランベールは息を押し殺す。流れてきた弓矢が二本、ランベールの身体を貫いていたのだ。
「第二騎士隊長殿――!」
 離れた場所から声が聞こえる。マリユスだろうか。それとも先ほどの騎士か。わからない。振り返ることもできない。
「……くっ」
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