クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 灼熱の痛みを感じた刹那、腕の力が入らなくなった。気付いたときには馬から滑り落ちかけていた。しかし必死に手綱を握る。矢はそのままに、落馬をしないことだけに集中した。
 ぬるりとした出血を感じ、死を覚悟しなければならない瞬間が、脳裏をよぎった。
 だが、ここで死んではだめだ。レティシアに戻ると約束をしたのだから。ランベールは彼女と指切りをした夜のことを思い返す。
 この日をどれほど待ちわびていたことか。どれほどの強い信念と意志で、過ごしてきただろうか。こんなことで、無駄にしてはならない。
 体勢を整えようと手綱を握り直し、ランベールは肩に刺さった弓をそのままに半分を手でへし折った。
「だい、じょうぶだ。私は……行かねば、ならない、のだから……」
 王宮に到着するまでの時間、持つかどうかわからない。とにかく、前へ、前へ、ランベールは急いだ。
 意識が遠のいていく。ぼやけた視界の中に、明るい光を感じた。それは、黄色の花……クロッカス。
 戻らなくては。
 自分を信じてくれている彼女のために。
 彼女を一人にさせてはいけない。
 もう二度と、泣かせてはいけない。
 彼女を守りたい。こんな自分を選んでくれた彼女の手を、ぎゅっと強く、握り返さなくてはならない。
「急いで、くれ……たのむ」
 馬に縋るようにして、ランベールは必死に手綱を握り続ける。ただひたすらに王宮を目指した。
 明るい光がやがて夕陽のような朱に変わっていくまで――――。

     ***

「余を拘束してどうするつもりじゃ」
正殿の間の中央で、革命軍の兵士に捕らえられた国王カルロスは、真っ先にレティシアを非難した。
 国王を守るはずの兵士は、すべて革命軍の兵士へと変わっていた。王宮内の敵は、カルロスただ一人となっていた。
 誰より親しい身内からの裏切りにより、カルロスの怒りの矛先はすべて彼女に向けられていた。
「レティシア。愚かしいことを。これは謀反じゃぞ」
 しかしレティシアは毅然と、王に宣告する。
「陛下……いえ、叔父様。これから、この国は変わらなくてはいけません。それを、私たちはこれから少しずつ実現していきます。これは、破滅のための内戦ではなく、国民に血を流させない、意義のある革命です」
 レティシアはランベールの意志を胸に留めながら、カルロスをまっすぐに見た。
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