クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
「レティシア……ひょっとして、励ましてくれているのですか」
「だって、声がだだ漏れているのだもの」
「……それは気づきませんでした」
 と、ランベールは肩をすくめた。
「ねぇ、ランベール。私、思ったことがあったの。父は何かを危懼していたの。病に倒れることはなかったけれど、もしかしたら自分の死を予期していたのかもしれない。それなのに、後継者を王女の私に指定しなかった。その理由は、単に私が若すぎるから器にないという理由以外にも、きっと、こうなることを視ていたのだと思うわ。生前に臣下に言われていた、賢王には先見の明がある……ってこういうことなのかしらって」
 それを聞いて、ランベールはこれまでのことを振り返った。
 もし、先代の崩御のあと王位を継いだのがカルロスではなく、レティシアだったとしても、きっと今と未来にはたどり着けなかったかもしれない。
 フリードリヒ二世の崩御はある日、突然のことだった。王女はたったひとりの肉親の死で悲しみに暮れており、混乱のさなか、カルロスは無理矢理に王位を継いだような形だった。彼は凡庸でありながら自己保身のための野心は並のものではなかった。
 そこから旧グランディアス王国の悲劇ははじまったわけだが、それは起こるべくして起こったものであり、同時に避けてはいけないものだったかもしれない、とランベールは考えていた。
 たとえば、最初からレティシアが王位を継いでいたら、今回とは異なるクーデターが起こる可能性もあった。そうなれば、レティシアの命が危うかったかもしれない。
 もしもレティシアの身に何かがあり、最後に残った王族がカルロスだけであったら、今の平穏な未来は訪れていないだろう。
 つまり、あのとき、あの時点で、レティシアは王位を継ぐわけにはいかなかったのだ。国と、彼女を両方守るためには、絶好の機会を窺う必要があった。
 賢王フリードリヒ二世はそうして先の先を呼んでいた可能性がある。
 それは、ランベールも薄々感じていたことだった。
「私が十六歳を迎える日、護衛をつけようと言ったのは父だった。誰よりも慕ってくれているランベールを選んだときから、父には何らかの構想があったのかもしれない。もしものことがあっても、この人なら任せられるって感じたはずよ。私もたくさんランベールに守られてきたわ。ほんとうに感謝しているのよ」
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