ボーダーライン。Neo【中】

 それから、およそ一ヶ月の時が流れた。

 あたしは一人、リビングにあるテレビの前に座っていた。

 お弁当屋さんの仕事のない日で、紅茶のカップ片手に(くつろ)いでいる。

 液晶画面を鮮やかに満たすのは、以前に録画した生放送の音楽番組だ。

 熱狂的なファンさながらに、もう何度か再生して見ている。

 だから記憶への定着は確実で、彼が喋るたび、その台詞に沿って唇まで動きそうになる。

 ディスプレイの中の檜は、生き生きとした笑みを浮かべていた。

 歌が始まる前のトークシーンから始まり、檜の好きな洋楽ロックバンドの歌、そして檜の歌う姿を繰り返し目に焼き付け、あたしは顔を緩ませた。

 今のところ慎ちゃんの居ない時間だけ、檜の姿を眺めている。彼らのファンになったと軽く言ってしまいたいが、まだそう出来ずにいる。

 不意に視線が棚の上に置かれたカレンダーブックへと吸い寄せられた。

「もう明日なんだね」

 五月二十日。

 内田くんと水城さんの結婚式であり、あたしの誕生日でもある二十日に、赤い丸印を書いていた。

 あたしは寝室のクローゼットを開け、小物入れの中から銀色の鍵を取り出すと、そっとそれを握り締めた。

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