ボーダーライン。Neo【中】
声に促され、あたしは再び顔を上げる。
「……ええ」
一度、檜を見つめるものの、どこか哀愁じみて睫毛を伏せた。
檜はサングラスを外し、あたしをジッと見ていた。
出会った頃のように、あの遠慮のない茶色い瞳にあたしを映していた。
「あ。これ返さなきゃ。遅くなってごめんなさい」
あたしは慌ててパーティーバッグを開け、ハンカチに包んだ鍵を渡す。
「ありがとう」
持ち主に帰った銀色のスペアキー。檜は手の中のそれをしんみりと見つめ、胸元のポケットに仕舞っていた。
「……来月の式もそうだけど、三十二歳の誕生日、おめでとう?」
「お。覚えててくれたの?」
「勿論」
檜は得意気に笑い、上着の内ポケットから、何かアクセサリーのような物を取り出した。
ーーなに?
相変わらず綺麗な指先で留め具をつまみ、あたしの眼前でシャランと躍らせた。
ーーうそ。
檜が取り出したのは、包装も何もされていない銀のネックレスだった。
そのネックレスに下がるペンダントトップを見て、あたしは目を丸くした。
「え。これって、まさか?」
細いチェーンには、ハートをモチーフにした華奢なリングが繋がっている。太陽光を反射し、リングがキラリと光る。