ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「今日は内客も知らない裏メニューまで張り切って作ったわ! たーんと召し上がれ!」
「わーい! あ、そういえばジュリアン腕平気なの」
「あぁ、弾が掠ったとこならもうほとんど平気よ。あたし、身体頑丈だから」
この通り、って隣に座って立派な腕を見せてくれるジュリアンにすごいぶら下がれそう、って言いかけたけどやめておく。ジュリアンに関してはどこまでが男の人で女の人なのかあたしもちょっとまだよくわからないからね。
で、そうこうしてたらウッド調で統一された店の中のお花やメッセージを物色していた硯くんが戻ってきた。
「ジュリアンそこどいて」
「あ? 右空いてんだからそっち座ればいいじゃない」
「おれは鳴の左側に座りたいの」
「なんなのよ…」
まぁカウンター戻るからいいけどさ、って内側にジュリアンが戻るとその席に硯くんが腰掛ける。それでどれから手をつけよー、って豪勢な料理を眺めてから隣を見てはたと気がついた。
「あ。硯くん、ここまだ傷になってるから絆創膏貼ったげる」
自分で貼り替えなきゃだめだよ、ってポケットに入れてた新しい絆創膏を剥いて硯くんの綺麗なほっぺたに貼り付けたら、その様子をカウンターで見ていたジュリアンに硯くんが目を向けた。
「…なに」
「…いや、なるほどねって思って」
「は?」
「なんでも! さ、仕切り直して召し上がれー! 残したら許しませーん!」
「「マジ拷問」」
それからあたしたちがジュリアンの豪勢なフルコースを制覇するのには、結局夜中までかかった。