ボーダーライン。Neo【下】
◇ ♀
急な旅行になった為、昔使っていた小さめのスーツケースに荷物を詰めて家を出た。
とは言え、未だにほとんどの私物を揃えていない状態だったので、必要最低限のものしか用意出来なかった。
勿論、日記帳も持って出た。フライトの間、全てを読み尽くし、檜と初めて撮った写真が既に無くなっているのにも気が付いた。
大事な写真を失くしてしまった訳だが、日記を見た慎ちゃんに捨てられたと考えるのが妥当だろう。確かあの写真は焼き増しをして、当時の檜に渡すつもりだったから、もう一枚が実家のアルバムに有るはずだ。
空港から約束の場所、トラファルガー広場に着いた頃には、現地時間の七時を回っていた。
七年前を思い出し、檜と初めて写真を撮った場所まで歩を進める。
記憶を揺るがす風が、不意に髪をなびかせた。
CDケースを片手に歌詞を確認する。
《初めて同じフレームに収まったあの場所で、僕はキミを待ってる。》
詩の通りなら、今、同じこの空間に檜が居るはず。そう思い、周囲を見回した。
すぐそばで子供の笑い声が聞こえた。
あたしが向いている方向とは逆方向に進み、母親に手を引かれた子供とすれ違う。
その様を何気なく目で追っていると、不意に強い視線を感じた。