子連れシンデレラ(1)~最初で最後の恋~
夢の中の女

柊也side~

「柊也さん貴方に見合いの話が来てるの・・・我が筒見家、会社としても決して損にはならない話よ」

「この俺に政略結婚しろと言うんですね・・・」

「そうよ・・・貴方、恋人も居ないんでしょ?」

「・・・」

俺の継母・寿々子さんは会社副社長。
彼女の娘二人の夫たちをホテルの現場の主要業務に付けていた。何れその夫たちは副社長の傘下に入る。社長にでありながら俺の立場は弱かった。

「考えさせてください・・・」

俺はその場では返事を避け、副社長室を出て、社長室に戻る。

「副社長と何を話したんですか?」

「俺に見合いの話を勧めて来た・・・」

「・・・そうですか・・・」

「黒沼・・・他人事だと思ってるだろ?」

「まぁ」

「・・・お手洗いに行って来る・・・」

「どうぞ」

黒沼の冷たい態度にチッと舌打ちして、俺はオフィス棟を抜け出し、ホテル内を巡回する振りをして、歩き回る。



高級ブランドの店が並ぶショピングゾーンの柱に隠れ、行き交う人々を見ていた。
平日の夕方。
人の姿も疎ら。

自分のホテルでナンパを試みるなんて、俺はどうかしていた。
やっぱりやめようと踵を返そうとした時。

時々、夢に出て来る女性と瓜二つの顔の女性が前方から歩いて来た。

そして、俺は彼女の腕を掴んで、柱の影に引き込んだ。

そりゃいきなり、腕を掴まれたんだ・・・
声を出して、助けを呼びたくなるだろう。

でも、彼女が声を上げる前に口許を手で塞いだ。



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