すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
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「今日はまだ来ていないか…」

空いている席を見つめ、小さく呟いた。

だいぶ、夜も更けてきた。

いつもこっそり部屋を抜け出してきているので、戻るのが遅くなるといけないのだが、今日は彼の姿を見ていない。

約束をしている訳ではないし、来ない日があるのも知っている。

自分も毎日のように来ているが、毎日来ている訳ではない。

なんとなく、会って確かめたかった。


作られた表情の中での生活は予想以上に大変だ。

母国ではあからさまに見下した態度の対応に、慣れ過ぎて何も感じられなかったのに。

時折、声をかけてくれる王太子妃や国王夫妻との会食。

大国の公女のイメージを崩さないようにと、普段は眼鏡を外しているのが、相手の表情が見えなくて人一倍神経を使っていた。

そんな中、ベルデ様の前だけは顔を作らなくてもよかった。

相手に合わせなくてもいい。

そう思えるのが彼だった。

それでも顔を合わせる時間が増えると、少しの表情の変化も判ってくるようになる。

眼鏡をかけているからなおさら、それが楽しく感じられているのも事実。

それが、どんな意味の感情なのか。

ずっと考えないように気付かない振りを続けていた。

もしかして、惹かれているのかな。

そう思いながらも、また分からなくなってきた。

本当に、気になっているのは。

会えないからと、彼を身代わりにしていたのでは。

それを確かめたくて。


読みかけの本を開いたまま、ため息をついた。


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