すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
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国の政務として重要な会議が終わると、毎年宴が開かれる。


政務官の高官達が多く参加する宴は社交の場。

忙しい会議の前にタヤカウ国公女がポイコニー国に来た理由もここにある。

政略という国同士の利益のために結ばれる縁だからこそ、国にかかわる人達の前での披露。

侍女のサリが気合を入れて着飾ったユナはヨウネと共に、王族が集まる上座近くの席にいた。

ポイコニー風を取り入れた落ち着きながらもタヤカウの華やかな衣装。

翡翠の髪飾りが印象強く揺れている。

立食も用意され中央フロアはゆったりとした曲が演奏されるダンスステージ。

予定時間の半ば過ぎて王太子のカーゼが会場に姿を現した。

政務の高官達や、各分野の招待客など挨拶を済ませヨウネ妃の元にやってきた。

「遅くなったが踊ってもらえるだろうか?」

差し出した手をヨウネ妃が重ねる。

率先して王族が踊ることで、皆へ宴を楽しむよう促す働きがある。

宴の中弛みを拂拭するに皆の視線が仲のいい王太子夫妻に注がれる。

ユナも邪魔にならないように壁際で、ゆったりと優雅に踊る二人を眺めながら、果汁の飲み物を口にする。

「キーマ殿下はまだ来られていないようですね」

恰幅のいい男性が話しかけてきた。

「そのようですね」

名前は知らないが見たことのある人物なので、最初の披露の時に並んでいた高官の一人なのだろう。

「貴女のような方が壁の花なんてもったいないですね…」

何か含みがあるような言い方で、少し警戒心が芽生える。
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