心の鍵はここにある
見ざる言わざる聞かざる
この人たちは、会社で何をやっているのだろう。
会議の準備を頼まれた私、五十嵐里美は、会議資料で使うプリントアウトしたコピー用紙を両手に抱えて、第二会議室へとやって来たのだが……
確かにノックをせずに入室した私も悪いかもしれない。
けどね、ここはラブホテルではありません。
ドアを開けた瞬間、目に飛び込んで来たのは同じ総務部の先輩で上司でもある藤岡拓馬とその彼女、経理部の後輩、佐々木春奈のラブシーン。
会議室の壁際で、藤岡主任、壁ドンしながら春奈ちゃんのスカートをたくし上げ、濃厚なキスの真っ最中。
ドアを開け、二人と視線が合った瞬間、お互いフリーズ状態だ。
すぐに我に返ったのは春奈ちゃんで、あられもない格好を私に見られ、可哀想に顔が真っ赤になっている。
即座に藤岡主任の手を払いのけて身支度を整えている間、藤岡主任は私の腕を引っ張ると、逆の手で会議室のドアを閉め、あっという間に密室状態に。
「五十嵐さん、ノックくらいはしようか?」
藤岡主任は、貼り付けたような笑顔を私に向けた。
春奈ちゃんは着衣の乱れを直し、何事もなかったかのような平静を装うものの、先ほどのことがショックだったのか、顔の赤みが引かず涙目だ。
「里美さん、あのっ……」
「春奈、大丈夫だよ。ねっ、五十嵐さん? 今日は定時上がり? ゆっくりと話がしたいなぁ、三人で」
藤岡主任は春奈ちゃんをフォローしつつ、私に口止めのための話し合いをしようと詰め寄ってきた。
完璧な営業スマイルなのはわかるけど、目がこわい。
春奈ちゃんは、すぐに気持ちが切り替えられず、まだ赤面して涙目のままだ。
「だれにも話す気はありませんが、とても不快ですので、今後はご遠慮下さい。会議の準備をしたいので、すみませんがご退席願えませんか?」
あくまで仕事のためにここに来たのだ。
好き好んでラブラブなところを邪魔しに来たわけではない。
「返事を聞いてない」
主任は相変わらずの貼り付けたような営業スマイルでしつこく食い下がる。
その目がこわい。
「ですからだれにも言う気はありませんので、お話しすることはありません」
関わりを持ちたくない私は、そう言って主任の手を振り払い、資料を空いた机の上に置くと座席の設置に取り掛かった。
「あっ、私も手伝います」
私に気を遣い、春奈ちゃんが側に駆け寄って来たけれど、私はそれを断った。
「ありがとう。でも、これは私の仕事だから。春奈ちゃん、経理に戻らなくて大丈夫なの?」
会議室の時計は十五時を過ぎていた。
月半ばでそれほど忙しくないのだろうか。
いつもなら、各部署から色んな経費の伝票が回って来てデスクから離れられないはずだ。
まあ、こうやって最近付き合い始めた彼氏と逢い引きしているくらいだから、余裕があるのだろう。
「はい、今日は滝野さんがいるので大丈夫です」
会議の準備を頼まれた私、五十嵐里美は、会議資料で使うプリントアウトしたコピー用紙を両手に抱えて、第二会議室へとやって来たのだが……
確かにノックをせずに入室した私も悪いかもしれない。
けどね、ここはラブホテルではありません。
ドアを開けた瞬間、目に飛び込んで来たのは同じ総務部の先輩で上司でもある藤岡拓馬とその彼女、経理部の後輩、佐々木春奈のラブシーン。
会議室の壁際で、藤岡主任、壁ドンしながら春奈ちゃんのスカートをたくし上げ、濃厚なキスの真っ最中。
ドアを開け、二人と視線が合った瞬間、お互いフリーズ状態だ。
すぐに我に返ったのは春奈ちゃんで、あられもない格好を私に見られ、可哀想に顔が真っ赤になっている。
即座に藤岡主任の手を払いのけて身支度を整えている間、藤岡主任は私の腕を引っ張ると、逆の手で会議室のドアを閉め、あっという間に密室状態に。
「五十嵐さん、ノックくらいはしようか?」
藤岡主任は、貼り付けたような笑顔を私に向けた。
春奈ちゃんは着衣の乱れを直し、何事もなかったかのような平静を装うものの、先ほどのことがショックだったのか、顔の赤みが引かず涙目だ。
「里美さん、あのっ……」
「春奈、大丈夫だよ。ねっ、五十嵐さん? 今日は定時上がり? ゆっくりと話がしたいなぁ、三人で」
藤岡主任は春奈ちゃんをフォローしつつ、私に口止めのための話し合いをしようと詰め寄ってきた。
完璧な営業スマイルなのはわかるけど、目がこわい。
春奈ちゃんは、すぐに気持ちが切り替えられず、まだ赤面して涙目のままだ。
「だれにも話す気はありませんが、とても不快ですので、今後はご遠慮下さい。会議の準備をしたいので、すみませんがご退席願えませんか?」
あくまで仕事のためにここに来たのだ。
好き好んでラブラブなところを邪魔しに来たわけではない。
「返事を聞いてない」
主任は相変わらずの貼り付けたような営業スマイルでしつこく食い下がる。
その目がこわい。
「ですからだれにも言う気はありませんので、お話しすることはありません」
関わりを持ちたくない私は、そう言って主任の手を振り払い、資料を空いた机の上に置くと座席の設置に取り掛かった。
「あっ、私も手伝います」
私に気を遣い、春奈ちゃんが側に駆け寄って来たけれど、私はそれを断った。
「ありがとう。でも、これは私の仕事だから。春奈ちゃん、経理に戻らなくて大丈夫なの?」
会議室の時計は十五時を過ぎていた。
月半ばでそれほど忙しくないのだろうか。
いつもなら、各部署から色んな経費の伝票が回って来てデスクから離れられないはずだ。
まあ、こうやって最近付き合い始めた彼氏と逢い引きしているくらいだから、余裕があるのだろう。
「はい、今日は滝野さんがいるので大丈夫です」