心の鍵はここにある
 滝野さんとはパート従業員で、元々経理を十年担当していた人だ。
 結婚してからも仕事を続けていたけれど、妊娠、出産を経験すると、どうしてもフルタイムでの仕事は難しいからと、昨年退職してパートに切り替えたばかりだった。
 数年前から会社の方針で、パートさんも条件をクリアすれば正社員採用になることも可能になったので、滝野さんは子育てが落ち着けば、また正社員に戻るだろう。
 滝野さんのお子さんは、現在保育所生活の洗礼を受け、集団生活特有の流行病をたくさんもらって帰るため、つきっきりとなることも多い。

 子育てが落ち着けば……

 他人の心配より、まずは自分の心配だろう。
 私は女子力が低い、見た目からして残念女子だ。
 髪型は、背中の真ん中辺りまで伸びた髪をいつも後ろで一つにまとめているだけで、何も変わり映えがない。
 色も入れていないから、地の色のまま。
 まだ白髪も生えていないだろうし、第一傷むので、パーマすらかけたことがない。
 視力も悪く、コンタクトレンズを使っているけれど、素顔を晒すことに抵抗があるので伊達メガネをかけている。

 もちろん社会人としての嗜みで化粧はしているけれど、バッチリフルメイクなんて恐れ多くてできない私は、ファンデーションとチーク、口紅を薄っすらと塗る程度だ。

 身長は百五十五センチと、少し低め。体重は……、ノーコメント。
 周りが細すぎる子ばかりなので、きっと標準より少し膨よかに見えると思う。
 性格も、どちらかと言えば内向的であり、揉めごとを嫌がる事なかれ主義。
 自分が我慢すればいいのなら、黙っているタイプだ。

 でも捌け口がないと爆発するので、そんな時はひたすらハンドメイドの小物を作る。
 完成品は自分でも愛用しているけれど、作りすぎて処分に困る。余剰分をネットで販売しているけれど、材料費や送料を差し引いて、ちょっと黒字になるくらいだ。

 会議の準備をしている間、藤岡主任は私をじっと見ている。
 だれにも言わないって言っているのに、信用ならないのだろうか。
 春奈ちゃんが手伝ってくれたおかげで、準備は思ったより早く済んだ。
 と思ったらどうやら第一会議室の会議が終わったらしく、退室しているらしい音が聞こえてきた。
< 3 / 121 >

この作品をシェア

pagetop