あの夏、君と。〜もう一度笑って〜
「うち、幼なじみって立場に甘えてた……。きっとどの女の子よりも距離が近くて、ゆき君に心許されてたと思ってた。だから、これからもきっと他の女の子は、ゆき君から遠ざけると思ってた……。」
ポロポロと涙を流し出す。
僕はポツリポツリと話すみちるの声を聞いていた。
「……一緒にいる時間が長いと嫌なとこにまで気づいちゃう……。今日、ゆき君、紗夜ちゃん見た瞬間に、恋に落ちたような顔してた……。嫌な子ならゆき君だって遠ざけてると思う。けど、話してて思った。この短い時間でも充分なくらいに。紗夜ちゃん、素直で純粋でゆき君と同じ目をしてる……。」
僕も思った。あの二人は似た者同士。同じ目をしている。
その分、打ち解け合うのも早い。
惹かれ合うのもすぐだ。
「……みちる、ごめん……。ゆきを誘ったその日に、『お兄ちゃん、人魚祭一緒に行きたい。』って言われて、断れなくて、2人なら許してくれるだろうって思って……。まさか、紗夜とゆきがああなるとは……」
みちるは涙を拭き、優しく花が咲くように、
「竹中君のせいじゃないよ」と言ってくれた。
「気持ち伝える前にわかって良かった。これなら、まだゆき君の幼なじみやってられる……。この立場だけは誰にも盗られたくない……!!」
みちるは、パッと立ち上がり、
「こんな顔、ゆき君達に見せられないから、今日はもう帰るね!!テキトーに誤魔化しといて!!また明日学校でね!!」
ニコッと笑って、みちるは振り向きもせずに、帰って行った。
きっと、辛くて、精一杯我慢していたのだろう……。
転校して1番最初に話しかけてくれたみちる。
そのみちるの恋を、僕が、潰してしまった。
最悪だ。
紗夜なんて……連れてこなければ……。
「お兄ちゃん……?」
顔を上げると、ゆきと紗夜がいた。
2人は手を繋いで。
「探したよ!あれ?みちるさんは……??」
その時、僕はどす黒い感情に飲まれた。
紗夜が僕に手を伸ばしてくる。
その手を払い除け、
「触んな。」
そう冷たく言い放った。
……やってしまった。
「おい!翔!……紗夜ちゃんはお前を心配して……!」
ゆきの正しい言葉でさえ、偽善に聞こえる。
「……1人にしてほしい。」
僕はそう言って、立ち去ろうとした。
その時。
「……うっ……ごっ……ごめんなさい……。私が……何かしたなら謝るから……。ごめん……なさい……!」
紗夜はボロボロと泣き出した。
いつも僕には高飛車な紗夜が。
「……紗夜ちゃん……。何とか言えよ!翔!」
ゆきも少し苛立っている。
そうだよな。好きな子泣かされて、黙ってる男はいない。
僕は生まれてから今まで紗夜にキツく当たったことはない。
そんな僕が。
それだけで紗夜にはかなりショックなのだ。
「……ごめん……なさい……。今日、お祭り着いてきたの……ダメだった……??いつも……お兄ちゃんに迷惑かけてるから……?さっき射的でほしいって……言って……ゆき君……困らせたから……??」
紗夜はどんどん悪くないことを謝っていく。
「……ごめん。ごめんな、紗夜。僕、ちょっと気が立ってたんだ。紗夜は何も悪くないよ……。けど、1人にさせてほしい……。」
泣きじゃくる紗夜を抱き寄せ、ゆきに声をかける。
「……紗夜を頼んだ。帰り危ないから送ってってほしい」
ゆきは落ち着きを取り戻し、
「分かったよ、何があったか分からないし、みちるもいないけど……。ちゃんと送るよ」
僕は微笑み、その場を後にした。