ミスアンダスタンディング
「っ空大、」
名前を呼ぶのが精一杯だった。もし拒絶されたら…そう思うと、手を伸ばして縋り付く事は出来なかった。
それが、ダメだったんだろうか。
「…知ってた?」
空大は靴を履く動きを止めずに静かに声を落とす。
「俺、未唯奈に好きって言われたこと、ねえんだよ」
「…」
「…一回も、ねえの」
彷徨うような言葉だけを残して、空大はそのまま部屋から出て行ってしまった。
ドアが閉まる音が響いたと同時にずるずるとその場にしゃがみ込む。
顔を覆った手の平が、みるみるうちに濡れていくのを感じた。
どうしてこうなってしまったんだろう。
あんなことが言いたかったわけじゃないのに。あんなことを言わせたかったわけじゃないのに。
言いたいことは何一つ言葉に出来なかったのに、言ってはいけないことばかりを聞かせてしまった。
もし、空大が居なくなってしまったら。
…私は一体どうなってしまうんだろう。
そんなこと、考えるだけで怖かった。