秘密事項:同僚と勢いで結婚した
「俺の分の浴衣もあるんですか?」
「ええ〜。千智くん、スタイルも良くてお顔も整ってるから絶対に似合うわよ〜」
………待って。
もしかして…今、母が言っている浴衣というのは…。
脳裏に過ぎる嫌な予感。
そして数時間後、その『嫌な予感』は的中し、私は頭を抱えることになるのだった。
お互い着付け終えてご対面した時、私の顔はきっと死んでいただろう。
「千智くん、自分で着付けられるなんて素敵〜!しかもすごく似合ってる!」
ほらね。ほらねほらね。
知ってたよ。
予想してたよ。うん。
(………元カレの浴衣掘り出して着させるとか、私の母親最低!!)
久々に親に対して悪態をついた。
いや、きっと私の母親は天然だし、抜けているから婚約破棄した浮気男のことなんて忘れているんでしょうけども…!
元カレはよく頻繁に私の実家に顔を出していた。
もちろん、この祭りに行くこともあった。その時に元カレが着ていた浴衣を今、穂高くんは着ているのだけれど…。
「…………」
片頬がヒクヒクと痙攣(けいれん)する。
気まずいなんてもんじゃない。
謎の後ろめたさと、苛立ちと。
行き場のない感情を殺しながら、私は髪を結った。