秘密事項:同僚と勢いで結婚した
同じ営業部で同期。成績や企画書のクオリティ、関与記録の作成スピード、一歩も劣らずに切磋琢磨してきた関係だからこそ…。
(突っかかってばっかり)
苦笑にも似た笑みを溢すと、私はカシスオレンジを口に含み、酸味と甘味をたっぷり堪能した。
「えー? 葉山ちゃん良いなって思ってた時期あったよー? 仕事も頑張り屋で、芯があって強い感じ。」
「……」
「あと前向きさ! 見習いたいし、尊敬してる」
「照れるな〜。ありがと〜」
いつも軽くあしらって女性から逃れてる橋本くんの真似をするように、私も掴み所のない感じで返してみた。
その時だ。
「っ……」
私の床についていた手を、隣にいた穂高くんが握ってきた。
もしかして…ヤキモチ…?
でも表情は普通だ。
私が一人、どぎまぎしていると…。
「でも穂高と上手くいってほしいって思ってる自分もいるんだよね。穂高、めちゃくちゃ本気みたいだし。」
「………」
「だから、少し気が向いたら穂高と付き合ってあげて?」
あぁ、きっと言いたかったのはこの言葉なんだろう。
なんだかんだライバルとして揶揄ったり、言い争ったりしている2人だけど仲が良いんだ。
焚きつけるようなこと言って、結局は穂高くんのことを想って私に『付き合ってあげて』とお願いする。
(橋本くんって勘違いされやすい行動ばっか)
でもきっと、彼の勘違いされるような言動は無意味なものではなかったんだろう。
同期会が終わるまでずっと、誰にもバレないように、隠れてこっそりと。
穂高くんは私の手を離さなかった。