独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
小刻みに肩を震わせ、目の端に涙まで滲ませている小田切先生が言う。
「……私、間違ったこと言いました?」
「いや、そんな間違ってもない。それより助けてくれたんだよね、ありがとう」
お礼の言葉とともに、ナースたちの目がもれなくハートになる、得意の甘い笑顔を向けられる。
しかし私自身はなにも感じないので、平常通りの塩対応だ。
「お礼を言うくらいなら自分でさっさと断って下さい」
「うん。さっきのことといい、自分でもちょっと反省してるよ。……いっそ恋人でもいるって設定にした方がいいのかな」
小田切先生は疲れたように呟きながら、通路を挟んで背中合わせの位置にある自分のデスクにギシッと腰を下ろした。私も目の前の仕事に戻りつつ、会話を続ける。
「設定とか言っちゃうってことは、ホント恋人作る気ないんですね」
「うん。さっきも言ったけど、脳外科医なんかやってると、恋人のために割いてあげる時間なんてないでしょ、正直」
自嘲気味に打ち明けられた彼の本心に、私は激しく共感を覚えた。
そうなのだ。私たちに恋愛している時間なんかない。これでどうやって結婚しろというのだろう、うちの父や祖父は。