独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 一度目の出血で脳表が真っ赤に染まっている。それを取り除きながら、動脈瘤を露出し、金属製のクリップで挟む。言葉で説明するのは簡単だが、患部に到達するだけでも多大な集中力が必要だ。

 動脈瘤を放置すれば再出血、すなわち死が待っているが、それは手術中に周囲の血管や神経を傷つけても同じだ。

 つまり、ミスは許されない。同様の手術は何度も経験したことがあるが、やはり患者が特別な存在であるというのは、精神力を削られる。

「……見えたな。慎重にいけよ」

 隣りで顕微鏡を覗く蓮見先生が、冷静に声を掛けてくる。

「ええ。……わかっています」

 金属のクリップを動脈瘤に慎重にかけ、はさむ。周囲の出血を確実に取り除いていき、脳圧を正常に保つ管を置く。

「……よし」

 あとは閉創を残すのみになると、ようやく張りつめていた気持ちが緩んだ。

 出血は最小限にとどめ、術中に愛花の容体が急変することもなかった。かかった時間は二時間程度。完璧なオペだったといえるだろう。

 術後に合併症が起こる可能性もあり予断は許さないが、とにかく最善を尽くした。あとは、愛花の生命力を信じるしかない。 

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