独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 その日の深夜、一緒にベッドに入ると、珍しく愛花の方から俺に身を寄せ、ギュッと抱きついてきた。

「どうしたの? 疲れて甘えたくなった?」

 そう言いながら彼女を優しく抱きしめてよしよし髪を撫でていると、愛花が俺の胸の中で呟く。

「あのね、純也」
「うん」
「私……赤ちゃん、ほしい」

 俺は思わず目線を下げて、彼女の顔を見る。上目遣いにこちらを見つめる彼女の頬は真っ赤で、思わずどきりとした。

「実は俺も、さっきそのことを考えてたんだ。でも愛花がどう思うかなって」
「私……まだまだ脳外科医としてひよっこだし、出産や子育てで、長期間現場から離れるのが怖くないと言ったらうそになる。でも、今年で三十越えたし、そんなこと言ってたらタイミング逃しちゃう気がして」

 同じ脳外科医として、現場から離れるのが怖いというのはわかる。しかし、妊娠・出産にはリミットがあるのも事実だ。高齢出産で、愛花の体に負担をかける事態も避けたい。

「そうだな。愛花が倒れた時にも思ったけど、物事を先延ばしにするのはよくない」
「でしょ? だから、その……」

 そこまで言いかけ、ごにょごにょと口ごもってしまう愛花。しかし、言いたいことは伝わっている。今夜からは避妊をやめて、何の隔たりもなく愛し合おうと、誘ってくれているんだよな?

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