背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 彼はドサッとソファーに腰を落とすと、顎に手を当て何か考え込んでしまった。

 私は、動く事も出来ずに立ち尽くしていた。



 しばらくすると、彼がゆっくりと顔を上げて私を見た。


「まあ、座ったらどう?」


 私は目を合わせる事なく、彼から一番離れた場所に座った。


「なあ、そうは言っても一か月だぞ。ホテル生活はキツイだろ? 安いホテルじゃセキュリティーも心配だし……」


 彼の言葉が、なんだか本当に心配しているように聞こえた。
 でも素直に頷く事など出来ない。


「そうだけど…… 何とかなるわよ…… 友達の所に行ってもいいし……」


「友達って? 何処に住んでるんだ?」


 すんなり納得してくれると思ったのに、探るような目で聞いてくる。


「色々よ……」


 あー、ヤバい、これじゃ嘘だとバレる。


「転々とするのも面倒だぞ。マンスリーマンションとか探したらどうだ? ちゃんと安全に住める場所見つかるまで、あの部屋貸してやるから……」


「えっ?」


 彼がそんな事を言うとは思っていなかった。
 驚きのあまり、目を見開いて彼を見てしまった。


 彼は、怒るでも笑うでもなく、まるで我儘を窘めるような表情をしてこちらを見ている。

 このままここに居るなんて、考えが追い付いて行かない。


 私が、返事も出来ずにいると、彼が口を開いた。

「どうせ使わない部屋だし。それに、冷蔵庫の中身、なんとかしてくれ。あんたが料理しなきゃ、多分腐って終わる」


 確かに、料理の形跡のないあのキッチンじゃ、腐らせてしまうのが落ちだろう……
 お肉も魚も野菜も、もったいない……


 だからと言って、ここに泊まるのが正しいのだろうか?
 出来れば、バリアが欲しい。



「一泊いくら?」


 頭の中の警戒音が、そう言わせたのだと思う。


「へっ? ああ、俺の分も飯作ってくれりゃ、お互い様って事でいいよ」


「それでいいの?」


 伺うように彼を見た。


「ああ…… それと……」


 そう言った彼の視線がじっと私の胸へ向けられた。
 熱く見つめる目が、男の色に変わった気がした。



「やっぱり、ホテルに行きます!」


 慌てて両手で胸を押さえて立ち上がった。


「ウソ、ウソだってば。冗談だよ。君には指一本触れません」


 彼は、両手を上げた。


 怪しい……


 私は、キッと彼を睨んだ。

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