背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 彼が、ドアを開けたのは、雑居ビルの最上階にあるバーだった。

 中に入ると、それほど広くはないがお洒落で落ち着いた雰囲気に、窓から街の夜景も見える

「いらっしゃいませ」

 落ち着いた声の主は、カウンターの奥に立つバーテンダーだ。


 彼がカウンターの席に腰を下ろしたので、私も隣りに座る。窓際の席には、二組のカップルが座っているだけで騒がしさもない。


 多分だけど、この店のテーブルや椅子は、彼がデザインしたものじゃないだろうか?
 なんとなくこの落ち着く感じがそう思わせた。


「ウィスキーのロックと……」

 彼が私を見る。


「ジンフィズかな……」


「かしこまりました」


 バーテンダーは頭を下げ、私達に背を向けた。



「いい雰囲気のお店ね。落ち着くわ」


「そうか?」


 彼は、そうでもないとでも言いたげだが、多分この店を気に入っているのだと思う。

 何も知識のない私が言うのも生意気な気がしたが、思い切って口を開いた。


「ねえ、このお店のテーブルと椅子、あなたのデザインよね?」


「えっ? さあな……」


 少し驚いた顔を見せた彼は、細くほほ笑んだ。


 うふっ
 私も小さくほほ笑んだ。


「おまたせしました」


 バーテンダーが、カクテルをコースターの上に置いた。彼のウィスキーのグラスも置く。


「いただきます」


 なんとなく、彼に言ってグラスを口に運んだ。


 こんな雰囲気の良い店でカクテルなんて、どれくらいぶりだろう?
 面倒で、つい家飲みが多くなってしまう。
 たまには、こういうのもいいかもしれない……


 ゆっくりとした時間を、時々言葉を交わしながら過ごす。
 悪くは無かった……
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