背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 「それなら、安心だ。悠麻くん、くれぐれも美月を頼んだよ」

 彼女の父が、俺に頭を下げた。

 何でこの人に頭を下げられるんだ? 俺は泊まらないぞ!
 彼女一人で泊まればいいだろ?


 だが、康介さんに羽交い絞めされている俺を置いて、皆ぞろぞろと部屋を出って行ってしまった。

 しかも……

「悠麻、この状況で何もないのは失礼と言うものだ。我慢はしなくていい」

 親父がニマニマしながら耳打ちして行った。

 この人、いったい何考えているんだ?


 この状況がどういう事か把握するのに、あまり時間はかからなかった。
 俺と彼女を二人きりでこの部屋に残す気だ。

 そして、俺が彼女に手を出す事を計算してやがる。
 さすがの俺も、見合いして当日に手を出すつもりなどない。そんな事をしてしまったら、結婚から逃れられな事くらいは分かっている。


 しかし、俺と彼女は部屋に取り残されてしまった……


 どうするべきか?


 俺はスマホを出し、父の名を画面に表示させた。
 彼女もスマホを取り出していた。


 プルルルル…

 何度か呼び出し音を鳴らす……

「おお、どうした?」


 親父の呑気な声に腹が立つ。


「どうしたじゃねえよ。どういうつもりだよ! こんな事したって、どうしようもないだろう?」


「うん? お前、こんな胸のでかい綺麗なお嬢さんと二人で、何もせずにいられるのか? わしには出来ん」

 親父の言葉に、呆れるのをとっくに通り越していた。


「はあ? バカな事言ってんじゃねえよ。こんな事、まともな人間の考える事じゃない!」


「まあまあ、美月さんの御両親と、これから北海道に旅行に行く事になったんだ。お前達の事には構っておれん。じゃあな」


「おい、何言ってんだ!」

 俺は、スマホに向かって叫んだ。


 ツーツー……


 通話は切れた。


 彼女も茫然とソファーに座っていた。
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