背中合わせからはじめましょう  ◇背中合わせの、その先に…… 更新◇
 引きつりまくった私の顔を見ている彼の顔も、目が大きく開いたまま止まっている。

 体中が一気にカーっと熱くなっていくのがわかる。

「湯之原さん?」

 隣りに立っていた同じ秘書課の河合さんの、心配そうな声にはっと我にかえった。

 落ち着け私……


 バレないように、小さく息を吸う。


「失礼しました。常務室へ、ご案内します」


「あ、はい……」


 彼も、はっとして返事を返してきた。私が居る事を知らずに来たようだ。


 私は彼の前に立ち、常務室へと案内するため歩きだした。

 私が案内するしかないのだから……



 彼が、後について歩いて来るだけなのに、私の鼓動は変な音を立て始めた。
 常務室までは数秒なのに、彼の気配を背中に感じて体が熱を帯びてくるのは何故?

 彼も私も口を開く事は無いまま、やっとたどり着いた常務室の中へと彼を案内する。


「厚木常務、本日お時間を作って頂きありがとうごじます。社長のキザキに代わり、市川と申します。」


 彼が名刺を手にして、常務の前に出た。


「失礼します」


 私は常務室を出るため、頭を下げた。


「コーヒーを頼む」


 常務が、ちらりとこちらを見て言った。


「はい。かしこまりました」


 基本お客様にはお茶をお出しするのだが、親しい方だとコーヒーを支持される事がある。
 だが、確かに名刺を交換していた。親しい間柄のようには思えない。

 確かに常務はコーヒーがお好きだ。それほど気難しい人ではないが、よっぽど機嫌が良いのだろか?
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