しかくかんけい!
■■ しょーくんside ■■
……──ピアノソナタ第8番、第2楽章。
ベートーヴェンのその曲が、頭の中で切なく響いていた。
シャワーヘッドから押し寄せる濁流は何も知らないくせに容赦なく顔面を叩きのめす。
ありえないのに、この流水音がその変イ長調にきこえて本当にうざい。
キュッ。
濁流を止める。
バスローブを巻いて蒸気の箱から一歩出ようと踏み出した瞬間、俺と目が合った。
無駄に大きい鏡が、この空っぽな俺を見せつけるように映している。
『ヒソウだね』
鏡の俺が口を開く。
愛莉は、そらっちの気持ちをだいぶ前から知っていたはずだ。
それなのになぜ、あんなにもボロボロになるまで、立っていられたのだろうか。
失恋という悲しみの中でも、何かを守るために必死で走り、手を振り、もがいていた。
まさしく、悲壮だった。
なぜあんなにも、頑張れるのだろう。
なぜあんなにも、想い続けられるのだろう。