しかくかんけい!


今の俺は、あの濁流が奏でた曲のようだ。


ピアノソナタ第8番──『悲愴』


ひそう。

母音も子音も同じ日本語なのに、どうして俺のヒソウは、こんなにも悲しくて痛いのか。

部屋に戻ればきっと彼女はいない。

やっと手に入ると思ったのに、やはり、その声で呼ぶのは俺じゃない。


「あー……」


なんだか、むなしいよ。


ねえ、このエンプティは、どうすれば埋まる?


これまでいろんな女を抱いてきたのに、満たされない空洞。

いつもその場限りの一時的な満足感だった。

ただの対症療法に過ぎなかった。


やっと、夢中になれるほどの音色(こえ)、見つけたのに。


「バーカ」


そんな罵りは低く地面を這い、鏡の俺にぶつかって染み込んだ。


当然だよね。

こんなことでしか、満たされない俺に。

ずるくて汚くて空っぽな俺に。


一途で綺麗で強い彼女が触れるのは、罪だ。


ぎゅ、と目を閉じて。

ゆっくりと開く。


そこにはまだ、寂しい顔をした俺がいた。





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