花鎖に甘咬み


「んん……っ」



歯が離れて、今度は真弓の赤い舌がちらりとのぞく。

噛んだ痕を消毒するみたく、首すじを舌が這う。そのこそばゆい感覚に体をすくめると、真弓は満足気に顔を離した。



反射的に、首もとを手で覆って真弓からズザザッと後ずさり、距離をとって。




「な、な、な……っ」

「な?」




はくはくと口を動かすだけで、言葉すらままならない私に、真弓はきょとんと純粋に首を傾げた。




「なんで、噛んだの……っ!?!?」

「嫌だったか?」

「イヤ、とかじゃなくて……びっくりするの!! いきなり噛みつかれたら、ふつうびっくりする!!」

「びっくりするくらいなら、いいだろ別に」




たしかに、まあいいか……なんて流されかける。いやいや、いやいや。

ぶんぶん首を横にふる私の首もとを見て、真弓はどこか満足気に呟く。



「キレーに付いたな」

「え……っ?」



なに、が?


確かめようにも、自分の首すじなんて、鏡でもない限り見えない。なんとか見ようと、ふぬぬ……と自分の体の構造と格闘していると、ふはっと抜けるような笑い声が降り注ぐ。

もちろん、その持ち主は真弓である。



「ちとせ、二重顎なってんぞ」

「うそ……っ!」

「嘘だけど」



べ、と舌を出す真弓。

からかわれた……というよりも、のぞいた赤い舌があまりにも扇情的でぐわっと体温が上がる心地がする。


うう、頬まで熱い、ぜったい今顔赤いよ。
見せられない、とふいっと顔を背ける。





と、背後でガチャガチャと金属音が響いた。

聞き覚えのあるその音は────と記憶をたどる前に、カラン、と錠の開く音が響く。




< 87 / 339 >

この作品をシェア

pagetop