花鎖に甘咬み

× × ×




結局、真弓に大人しくついて行くと、たどり着いたのは、隠し通路の向こうの、あの真弓の隠れ家だった。しばらくは、ここで夜を過ごすつもりだそう。場所が割れていなくて、〈薔薇区〉の中ではまだ比較的安全なんだとか……。



シャワールームを借りて、「これしか持ってない」と手渡された真弓の予備のスウェットに着替える。




「やっぱ、デケェか」




だぼだぼでワンピースみたいになってしまった。

さすがの体格差に、真弓もちょっとびっくりしたみたい。頭からつま先まで、改めてつう、と視線でなぞられる。



「お前、アカリとほぼ身丈変わらねえからな。まー、アカリが置いてったのはさっきまでのあの一着きりだし、夜は諦めてそれ着てろ」

「うん……」



アカリって、ほんとうに、誰なんだろう。
忘れかけていた数時間前の疑問が再びむくむくと湧き上がってくる。




「不満か?」

「ううん! べつに! 平気!」



ふるふると首を横に振って否定する。

むしろ、真弓のサイズの服を着ていると、真弓にぎゅっとされているみたいで落ちつく……なんて言ったら、変かな。


だって、なんだか、心なしか、真弓の匂いがするような気もするし。



「ん。じゃー、俺も風呂行くわ」

「うん。あ……、先入っちゃってごめんね」

「いや、お前もう体力限界だろ。先寝てろよ」

「ありがと……」



真弓の大きな手が、くしゃりと私の頭をかぶせてあるバスタオルごと撫でる。


それで真弓もシャワールームに向かっていくけれど、途中でなにかを思い出したように、あ、と振り返った。



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