花鎖に甘咬み



「嗅ぐなよ、ソレ」

「……!」



ソレ、と真弓が顎で指したのは、身につけたばかりのスウェット。

まさに今、すん、と鼻で息をしようとしたところだったので、図星を指されてギクリ、固まってしまう。



「ふは、変態」



なんて言葉とはうらはらに、真弓が浮かべた笑みはあまりにも爽やかで、そのギャップにくらくらする。

そんな私の内心などつゆ知らず、真弓は脱衣所へと消えていった。



× × ×



『先寝てろよ』と言われたものの。


ほんとうにその通りあっさり眠ってしまうなんて、さすがに申し訳なくて、できなかった。それに、自分の家でもあるまいし、どこに寝ていいかもわからない。あるのは、シングルベッドひとつきりだというのに。


それで、真弓がシャワールームから出てくるまで、コンクリートの床に体育座りをして、抗えない睡魔に襲われつつ、ゆーらゆーら、揺れていたら。



「ちとせ」



いつの間に、お風呂から上がっていたのか、とつぜん背後から名前を呼ばれて、普通にびっくりしてしまう。

まどろみかけていた意識が、一気に覚醒した。




「まだ起きてたのかよ」

「真弓のこと、待ってたんだもん……」

「すげえ眠たそうじゃん」





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