やがて春が来るまでの、僕らの話。



「今日は何時から?」

「早番だから夕方の4時にお店に来てって」

「帰りは?」

「シフト通りだと一応夜12時まで」

「ほんと大丈夫かよ」

「大丈夫大丈夫」

「それって遅番もあるの?」

「私は早番だけみたい」

「そっか、じゃあ真夜中になることはないのか」


時計を見るともう仕事に行く時間だ。

最後にコーヒーを喉に流して、食器を持って立ち上がる。

台所に食器を置いてネクタイをグイッと締めて腕時計をしていると、座ったままのハナエちゃんが窓の外を見て呟いた。


「……ねぇ律くん」

「ん?」

「この街は雪、全然降らないね…」

「………」


消えそうなその声に、朝っぱらから胸が痛くなる。

少し雲がかかる薄暗い朝の空からは、2月を過ぎても雪が降ることは1度もない。

あの町の景色は今きっと、一面が銀世界で染まっているんだろうなって。


きっと俺たち2人共、そんなことを考えていた……

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