やがて春が来るまでの、僕らの話。








「今日から早番チームに入る谷ハナエさんだ」

「よろしくお願いします」


店長のクマさんに紹介されて、開店前の店内で従業員の皆さんに頭を下げる。

端の方で杉内くんが見守ってくれているのが見えて、彼の笑顔に緊張が少しだけほぐれた気がした。


「じゃあ同じ早番チームの矢野に色々教えてもらってくれなー」

「はい」


矢野さん、どの人だろう。

キョロキョロと視線を動かすと、1歩前に踏み出したスタイルのいいお姉さんと目が合った。


矢野美鈴(やのみすず)です、よろしくね」

「はい、よろしくお願いしますっ」


頭を下げ、その後は矢野さんにひたすら着いて回った。

分からないことだらけで、メモをとるのに必死で。

お酒の名前もいっぱいあるし、パスタだってへんてこりんな名前ばかりで覚えにくい。

おしぼりやお水の出し方、食器の下げ方やオーダーの取り方。


開店前にして私の頭はパンク寸前になり……


そんなパニック状態のまま、1時間後、店は開店した。

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