やがて春が来るまでの、僕らの話。


店が開店してからずっと緊張している。

体が強張って、全然言うことをきいてくれない。


「いらっしゃいませはもう少し大きい声で言ってね」

「はい……」


いらっしゃいませを言うタイミングもわからなくて、緊張で声も小さくなって、笑顔でって言われてもうまく笑えない。


杉内くんはカウンターのお客さんと話をしながらそつなく仕事をこなしていて、

私とは大違いのその姿が、なんだか五割増しでかっこよく見えた……





「お疲れ様でしたー」


夜12時、やっと初出勤を終えた。

従業員部屋の更衣室で着替えたあと、イスに座りこむと同時にテーブルにうつ伏せた。


疲れた。その言葉しか出てこない。

周りに座るホールの子たちは元気そうに見えるのに、私の疲れっぷりは一体なに……。


「お疲れ様。どうだった、初日」

「……疲れました」

「あはは、素直だねぇ」


矢野さんが私の隣に座ったタイミングで、仕事を終えたバーテン姿の杉内くんが入ってきた。

彼を見た女性陣が髪や服を整えだしたから、杉内くんがモテるということはすぐに理解した。

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