やがて春が来るまでの、僕らの話。


「ハナエちゃん、今日ってどうやって帰るの?」

「あ、終電ギリギリ間に合いそうだから、電車で」

「俺飲んでないし車の日だから、乗ってく?」

「え、でも……」

「いいよ、律くん家同じ方向だし。じゃあ着替えてくるからちょっと待っててね」


杉内くんが更衣室に入った後、刺さるような視線を感じた。

女性従業員たちの、刺さるような視線……


「仲いいんだ?」

「え?」

「杉内くんと、仲いいんだ?」

「あ、少し……」


なんとなく漂う嫌な空気は、昔感じたものと似ていた。

若瀬くんと付き合いだした時。

あの時と似た空気を感じるのは、気のせいかな……



「気を付けたほうがいいよ」



小声で言う矢野さんに視線を向けると、彼女はヒソヒソと耳打ちするように言ってきた。



「ここのみんな、杉内くん狙いだから」

「、……」



どうしたって嫌な記憶が蘇ってくる。

若瀬くんと付き合いだして、ひどい嫌がらせが起きたこと。

変なメールが届いたり、変なメモが届いたり、靴が泥まみれになっていたり。


懐かしいような苦しいような、そんな記憶が頭の中に蘇ってくる。

もしかしたらまた始まるのかな、嫌がらせ。


杉内くんと仲良くしたら、また……

< 216 / 566 >

この作品をシェア

pagetop