やがて春が来るまでの、僕らの話。
「ハナエちゃん、今日ってどうやって帰るの?」
「あ、終電ギリギリ間に合いそうだから、電車で」
「俺飲んでないし車の日だから、乗ってく?」
「え、でも……」
「いいよ、律くん家同じ方向だし。じゃあ着替えてくるからちょっと待っててね」
杉内くんが更衣室に入った後、刺さるような視線を感じた。
女性従業員たちの、刺さるような視線……
「仲いいんだ?」
「え?」
「杉内くんと、仲いいんだ?」
「あ、少し……」
なんとなく漂う嫌な空気は、昔感じたものと似ていた。
若瀬くんと付き合いだした時。
あの時と似た空気を感じるのは、気のせいかな……
「気を付けたほうがいいよ」
小声で言う矢野さんに視線を向けると、彼女はヒソヒソと耳打ちするように言ってきた。
「ここのみんな、杉内くん狙いだから」
「、……」
どうしたって嫌な記憶が蘇ってくる。
若瀬くんと付き合いだして、ひどい嫌がらせが起きたこと。
変なメールが届いたり、変なメモが届いたり、靴が泥まみれになっていたり。
懐かしいような苦しいような、そんな記憶が頭の中に蘇ってくる。
もしかしたらまた始まるのかな、嫌がらせ。
杉内くんと仲良くしたら、また……