やがて春が来るまでの、僕らの話。
【倉田side】
「おかえり。初日どうだった?」
深夜1時前。
音を立てないようにドアを開けたハナエちゃんを、待ってましたとばかりに出迎えた。
「あれ、起きてたんだ?」
「そりゃあせっかくの初出勤だし」
「寝ててもよかったのに」
「ダメダメ、仕事始めた時の大変さは分かってるつもりだから、せめて出迎えぐらいしないと」
寝る準備は出来てるけど眠れるわけもなく、彼女の帰りを待ちわびていた。
だっていつもなら俺が仕事から帰ると迎えてくれる彼女の姿が、今日からはなくて。
少し前までは1人が当たり前だったし、今日だって家に1人でいたのなんてたった数時間だけだったのに。
それなのに、なんでか無償に静かに、そしていやに長く感じた。