やがて春が来るまでの、僕らの話。







「あ、南波くんいらっしゃい」


働き出して半月が経った3月の夜。

仕事にも大分慣れてきた店の中で、カウンターの端に座る南波くんの姿を見つけた。


「久しぶりー」


杉内くんに作ってもらったお酒を飲みながら、南波くんは御満悦な笑顔を浮かべている。


「慣れた?仕事」

「う~ん、どうかなぁ」

「大丈夫だよ、ハナエちゃん仕事覚えんのも早いし、立派立派」


カウンターの中から話に加わった杉内くんに、そう言ってもらえたのが嬉しかった。

初めての仕事で毎日が必死だったけど、どうにか自分なりにこなせるようになった気がしていたから。

それがとても嬉しくて、毎日がすごく充実している。


「そうだ、今度みんなで飲みに行こうよ」

「みんなって?」

「律くんと俺と南波くんとハナエちゃんでさ、ね、行こう?」

「楽しそう、行きたい!」


友達と飲みに行くなんて初めての経験で、考えるだけでわくわくしてくる。


「じゃあね、えーっと、4日は?」


手元のシフト表を見ながら、杉内くんが早速日程を考えている。

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