やがて春が来るまでの、僕らの話。



「ごめん、終電だから私もう行かないとなんだ」


3月になっても夜はまだ寒い。

手に持っていたストールを首に巻いたら、南波くんがその手を掴んだ。


「あのさ、ちょっと付き合ってくんない?」

「え?」

「ちょっとだけ、帰りのタクシー代出すから」


よく分からないけど、断る理由も特にないから頷いた。


「じゃあきっと心配するから、律くんに遅くなるって連絡しといてね」

「うん」


言われた通り連絡をしたあと、南波くんに連れられて向かったのは、小さな古い建物だった。

パスタBARから歩いて10分程の場所にあるその建物の地下に、南波くんは入っていく。


ここ、どこ…?


「どうぞ」


招かれて足を踏み入れると、なんだか懐かしい匂いがした。

学校の美術室のような、古い家のような、なんだかとても懐かしい匂い。

パチっと電気を点けると蛍光灯が灯って、辺り一面に広がる絵画や木材やペンキが目に飛び込んできた。

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