やがて春が来るまでの、僕らの話。







4月、春と共に待ちに待った飲み会の日が訪れた。


「えーと、南波くんと律くんがビールで、ハナエちゃんは何飲む?」

「じゃあ梅酒で」

「おっけー」

「ねぇ、誰か携帯鳴ってない?」


南波くんの声に耳を澄ませると、ピロピロピーという間抜けな音が聞こえた。


「ごめん俺だ」


注文をするためにボタンを押してすぐ、スマホを持った律くんが個室を出ようと立ち上がる。


俺の横を通り過ぎる時、律くんは既に誰かと通話を始めていて……

俺にはその会話が、少しだけ聞こえてしまった。


「もしもし、場所わかる?」

「……?」


場所?

場所って、この店の場所?

今日の参加メンバーなら、もう全員揃ってるけど……。


そんな疑問を残して、律くんは個室を出て行った。



「ねぇ、俺もつ鍋食いてぇ。ニボシとカツオで取った『でじる』に、本格醤油を加えたスープ。美味そうじゃない?」

「でじる……?それ、『だし』じゃない?」


南波くんの発言に、ハナエちゃんが不思議そうな顔で言う。

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