やがて春が来るまでの、僕らの話。
「ねぇハナエちゃん、顔真っ赤だよ。大丈夫?」
「え、ほんと?だから体がホワホワしてて楽しいのかな!」
「そうだそうだ、楽しいんだぞ、酒って」
「美味いんだぞの間違いじゃない?」
この街に来てからずっと1人だって言ってたハナエちゃんが、こうしてわいわい酒を飲めるなんて素晴らしいことだと思うんだ。
それってさ、なにをどう考えたって素晴らしすぎると思うんだ。
もっともっと楽しいことが起こればいいなって、そんな願いを込めてメニューを開いた。
「今日は潰れるまで飲もう!次はロックだ!」
「いやちょっと、杉内。あんま飲ませんなって」
「ていうか律くん全然飲んでなくなくなぁーい?」
「なくなくなぁーい?」
「なくなく、」
「あのさ!」
俺たちのコミカルな雰囲気を遮って、律くんは少しだけ神妙な面持ちになった。
「なに、急に深刻な顔して」
「酒もいいんだけど、実はもうすぐ、」
話しの途中、さっきと同じピロピロピーという音が個室に響いた。