やがて春が来るまでの、僕らの話。
「なに、今の音、」
もう1人の男がドアを押し開けて顔を出す。
割れたグラスからゆっくりと顔を上げた男は、ハナエちゃんを見て……
「…………」
目を見開いたまま、固まった。
なに、誰?
ハナエちゃんの知り合い?
「っ……」
「………」
「………」
3人とも固まったまま動かない。
ねぇ、大丈夫……?
シン…とする中、ハナエちゃんの足が1歩下がって、
その瞬間───
バンッ!
中途半端に開いていたドアを力強く開けた男が、中に入ってきたその勢いのまま、
進んでくるその勢いのまま、ハナエちゃんを抱きしめた……
「、ざけんじゃねぇぞ───!!!」
抱いたまま、男が叫ぶ。
「若瀬く……」
「っお前、こんなとこでなにしてんだよっ!!なんでここにいんだよ!!?」
「……っ…」
抱きしめてるのに怒ってる、そんな妙な行動に、俺と南波くんは訳がわかんないままで……
「俺たちがどんな想いでっ……」
「、…」
「…、っお前がいなくなってから、どんな想いで生きてきたと思ってんだよ!!!」
「……っ…、…」
「勝手にいなくなってんじゃねぇよ!!」
ハナエちゃんの目から、ボロボロと涙が溢れ出した。
それを見て、わかっちゃった。
そっか、この人たちだったんだ。
ハナエちゃんと律くんが、ずっと気にかけていた幼馴染くんたち。
そっか、この人たちだったんだ……
「ゴメ、…ッ、ナサ、…」
力が抜けた男の腕の中で、ハナエちゃんが崩れるように座り込む。
「…ッ……ゴメン、ナサイ……」
崩れたハナエちゃんに近づこうとしない、もう1人の男。
ドアの手前に立ち尽くしたまま、その男が小さく呟いたのは……
「………ハナエ」
消えてしまいそうな、彼女の名前だった……