やがて春が来るまでの、僕らの話。
「もっと身近であんじゃん。家族のこととか友達のこととか、健康とか将来とか」
視線を焚き火に移した柏木くんの目の中に、赤い炎が揺れている。
「そうだけど……でも近くにいる人だけが幸せならそれでいいって、そんな風には思えない」
私の声に、柏木くんの視線がもう一度こちらを向いた。
「人類全て平和がいい?」
「人類も、動物も虫も」
「クハハ、どんだけ優しいんだよ」
みんなが平等に、分け隔てなく幸せになれる世界があればいいのに。
“あの時”から私は、そう願わずにはいられなくなった。
そんなキレイごと叶うわけないって、わかっているのに。
それでも、願わずにはいられないんだ……
「そうだ、ねぇ柏木くん」
「んー?」
気になっていた、あの日からずっと。
倉田先輩と一緒に帰った、あの日から。
「この町で、なにか怖い事件が起きたの?」
尋ねると、柏木くんの表情は明らかに変わって、
「は?」
柔らかかった横顔が一変……一瞬で険しくなり、睨むような目つきで私を見た。
聞いてはいけないこと、だったのかな……
「……誰に聞いた?」
「え、」
「クラスの奴ら?」
柏木くん、怒ってる?
鋭い視線が、なんだか怖い……